従来株式や債券といった資産を通じて取引されていたリスクは価値が変動するものを買っておくか売っておくかしかできないものでした。
これを変えたのがオプション等の古典的なデリバティブです。
デリバティブを利用することで例えば債券価格が下がれば儲かる取引や株価が大きく変動したときだけ儲かる取引等が可能となります。
ヘッジや投機を目的にこのようなデリバティブの取引が行われることで「リスクは様々に加工して取引できる」という認識が浸透して行きました。
一方MBSの登場は住宅ローンというそれまで証券としては取引されていなかったリスクでも資本市場で証券として取引できるようにする方法があることを明らかにしました。
さらにそれに続くCMOの登場は住宅ローンのような新たなリスクを取引の対象とするだけではなくそのリスクを能動的に分解し細分化しコントロールして取引できることを深く認識させました。
一つのMBSから短・中・長期の異なる投資目標を持つ異なる投資家の異なる需要に合致する証券を作り出すCMOは「対象資産が抱えるリスクを異なる投資家のニーズに合わせて切り売りできる]ことを現実のものとして市場参加者にまざまざと見せつけたのです。
証券化におけるリスクの能動的なコントロールはデリバティブの発展とともにますます拡大しました。
そのような技術を背景に自動車ローンやクレジット・ローン等の新しいリスクがABS(資産担保証券)として証券化金融商品に付け加えられ取引の対象はますます拡大しました。
さらにクレジット・デリバティブの登場で信用リスクという新たなリスクも市場で取引されるようになったのです。
これだけ様々なリスクが証券として取引されると「条件さえ整えばどのようなリスクでも証券として取引できるのではないか」と考える方が自然になります。
またそれまでに作られた証券化金融商品やデリバティブの類推からリスクをどのような仕組みで扱いコントロールすれば良いかということも見当がつきます。
こうしてCAT債券や天候デリバティブが登場し保険リスクや天候リスクまでもが資本市場で証券として取引されるようになりました。
もちろん個々のリスクを証券として取引できるようにするためには個々のリスクに固有の困難が伴います。
そのような問題を支払い金の構造や取引の方法を定める様々な工夫で克服しながら証券化やデリバティブの対象となるリスクの範囲はますます拡大しているのです。
このように証券化やデリバティブが発展した現在ではどのようなリスクでも証券として取引の対象にできる可能性がありそこからリスクは選んで取引するもの取引し易いように加工して取引するものと考えることが当たり前になりました。
「リスクは条件さえ満たされるなら取引したいように能動的に分割・細分化しコントロールして取引できる」。
市場参加者が皆このことを当然と考えて行動するようになったことが現代の金融市場のあり方に大きな影響を与えているのです。
証券化とデリバティブの発展が金融市場に与えたもう一つの大きな影響はリスクを誰が取引するかという範囲を定めてきた「業際の垣根」を壊したことです。
どのようなリスクでも取引できるばかりでなく誰でもそのリスクを取引できるようにする。
その手段を提供することで証券化金融商品やデリバティブは既存の制度を越えた様々な主体によるリスクの取引を可能にするのです。
例えば住宅ローンの証券化を思い出してください。
MBSは対象資産である住宅ローンの返済金を支払い金とする一方その売却金を住宅ローンへの貸付け資金とします。
このためMBSの購入者は返済金を受け取ることと引き換えに住宅ローンに貸付け資金を提供していることとなります。
実質的には住宅ローンを貸付けることと同様の機能を果たすわけです。
このようにMBSの登場によってそれまで一部の金融機関だけが行っていた「住宅ローンを貸付けそれに関わる様々なリスク(債務不履行や期限前償還)を負担する」という役割を、MBSを購入すれば誰でも果たせるようになりました。
同じことがCAT債券についても言えます。
CAT債券は保険料を元利償還の原資とする一方で災害が発生すれば保険金の支払い分だけ償還を減額します。
このためCAT債券の購入者は債券の支払い金として保険料を受け取ることと引き換えに保険金の支払いに使える資金を提供することになります。
保険料と引き換えに保険金を支払うリスクを負担するのですから実質的に保険会社と同様の機能を果たすわけです。
このようにCAT債券の登場で従来は保険・再保険会社だけが果たしてきた「保険料を受け取る代わりに保険金の支払いリスクを負担する」という役割をCAT債券を購入すれば誰でも果たせるようになったのです。
先に紹介したその他の金融商品についても同様です。
天候デリバティブや天候リスク証券化商品を取引すれば誰もが天候リスクの引き受け手となることが可能です。
実際天候先物やオプションが取引されるシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の主な取引参加者にはパワー・マーケッター(POwermarKeter)と呼ばれるエネルギー関連商品取引会社が名を連ねます。
またクレジット・デリバティブを取引すれば機能のうえでは金融機関でなくとも誰でも信用リスクの引き受け手となることができます。
従来は限られた主体だけが取引していたリスクをそれまでの制度的な枠組みを越えて様々な主体によって幅広く取引できるようにする。
証券化とデリバティブの発展はこのような意味でどのリスクを誰が取引するかを仕切ってきた垣根を壊したのです。
いまや取引の対象となるリスクの範囲に制限はありません。
どのようなリスクでも取引できる可能性がありリスクはそこから選び出し分割・細分化しコントロールして取引するものです。
また取引する主体を制限する垣根もありません。
証券化金融商品やデリバティブを取引すれば既存の制度上の枠組みにとらわれず誰でも取引したいリスクを取引することができます。
こうなるとリスクの取引に関しては誰が行うかではなく何を行うかが重要となるのは当然でしょう。
MBSの購入者が実質的に住宅ローンへの貸付けを行う機能を担うようにCAT債券の購入者が実質的に大規模自然災害への保険を提供する機能を果たすように、リスクの取引と負担という観点からすれば制度的証券化やデリバティブの発展が取引の対象と取引する主体の範囲の拡大をもたらし様々なリスクの取引について制度上は異なる様々な主体が機能的には同じ働きを果たせるようになった、結果リスクの取引の担い手の範囲を定めてきた従来の「制度」よりもリスクの取引と分担について実質的に果たす「機能」が本質的に重要な課題となったのです。
この流れを受けて既存の制度の枠組みの中で取引されていたリスクを改めて機能という統一的な視点から再評価する動きも盛んになっています。
例えばCAT債券を利用すれば大規模自然災害の保険リスクを資本市場が負担できるのですからその他の保険リスクについても条件さえ整えば(損保・生保に関わらず)資本市場がそれを負担する保険機能を提供できるはずです。
だったらいままで保険市場だけで扱われてきた保険リスクを資本市場でも負担するという立場から再評価することで保険市場のリスクと金融市場のリスクを統一的に扱っても不思議ではありません。
保険と金融の融合と提唱される動きがまさにこれです。
また事業には様々なリスクがつきものですがそのようなリスクをこれまでは事業者が内部化して自分で負担してしまっていたり取引慣行の中で暗黙のうちに取引相手に負担させていたりしました。
リスクの価値の定量的な評価もなかなか行われてはいません。
しかしながら事業者自身や関連者だけでは負担できるリスクには限度がありリスクを抱え過ぎてしまうと事業の発展が抑制されてしまいます。
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